北海道芸術文化アーカイヴセンター

HOKKAIDO ARTS AND CULTURE ARCHIVES CENTER

シンポジウム概要リポート

開催:2024年10月6日 北翔大学札幌円山キャンパス

 北海道芸術文化アーカイヴセンター(ACA)は10月6日、シンポジウム「北海道の芸術文化を 掘る・残す・活かす」を、北翔大学札幌円山キャンパスで開催しました。同大学北方圏学術情報センタープロジェクト研究美術グループとの共同主催です。114人の参加を得て、アーカイヴ(記録・保存)とは何か、地域の歴史や文化を記録にとどめていく意義と可能性を、沖縄、長野、宮城(仙台)でそれぞれ市民や公的機関が取り組むアーカイヴの先例に学びながら話し合いました。同じ会場のギャラリーAで開催した「北海道のアーカイヴ事例ポスター展」も好評を得ました。
 ここでは「シンポジウム速報」として、登壇者の発言の要点のみを報告します。全記録は2025年1月に刊行を予定する《ACAライブラリ01》に掲載します。(文責・古家)

ACAシンポジウム
パネル討論 右から甲斐さん(ディスプレイ)、森さん、池澤さん、吉崎さん、古家 all photos ©️Shiro Kariya

 この日登壇したのは、池澤夏樹さん(作家、NPO法人あまくま琉球理事)、甲斐賢治さん(せんだいメディアテーク アーティスティックディレクター=オンライン参加)、森いづみさん(県立長野図書館長)、吉崎元章さん(本郷新記念札幌彫刻美術館長)。コーディネーターはACA代表の古家昌伸が務めました。

■ACAの自己紹介〜データベースのデモンストレーション 古家

—— 2024年6月19日に設立。それまでの経緯と理念
—— 活動の柱は芸術・文化に関する事象(イベント)や資料・書籍を記録していくこと
—— いずれは芸術・文化クロニクル(年表)やさまざまなプロジェクトも
—— データベースのデモンストレーション
—— ACAの活動を維持するため「三つのエール(応援)」のお願い

■基調講演
地域のアーカイヴ〜沖縄と北海道 池澤夏樹さん

—— アーカイヴとはなにか。「忘却との戦い」である
—— 沖縄はアメリカと日本のやりとり(=公文書)の実物を確保して歴史を記録する
—— 英国の歴史学者E・H・カーの言葉「歴史とは過去との対話である」
—— アーカイヴは「歴史と語り合う・対話する」ことを支える
—— 沖縄のアーカイヴ「あまくま琉球」は、過去を知って未来に進む姿勢の表現と言える

■事例紹介
信州の地域文化資源をつなぐ知の広場「信州ナレッジスクエア」 森いづみさん

—— 図書館は市民が社会で積極的な役割を果たすための地域の情報センターである
—— 県立の歴史館、美術館、県と大学の図書館が協力する「信州知の連携フォーラム」
—— デジタルアーカイヴ「信州ナレッジスクエア」のシステム基盤は県立長野図書館に
—— 各館が所蔵するコンテンツのほか、地元出身ジャーナリストの日記公開や区誌編さんで発掘された地域資料も収録
—— 公的機関と地域をつなぐ役「文化資源コーディネーター」が必要

■事例紹介
市民と震災を考える「わすれン!」の活動 甲斐賢治さん
[オンライン]

——生涯学習施設の役割として、震災に伴うさまざまな「隔たり」を行き来する
—— プロジェクトよりプラットホーム〜3.11をわすれないためにセンター誕生
—— 市民が震災の経験を語り、録音する。著作権の処理・管理も重要
—— アーカイヴイングの状況を検討する「哲学カフェ」
—— コミュニティが管理する草の根的アーカイヴ、動的な存在

■パネル討論 地域の芸術・文化アーカイヴ その意義と可能性 —— 池澤さん、森さん、甲斐さん、吉崎さん、古家

登壇者の発言から抜粋

—— アーカイヴは「将来への責任」でもある
—— 地域の記録を自分たちが残していくべきだ、という意志や使命感が必要
—— 自分たちの歴史を未来につなぐ気持ちがあれば、公的機関はお手伝いできる
—— ACAが(市民が記録していく活動の)入り口の機能を果たせるかどうか
—— 市民が共通して使えるシステム(プラットホーム)を「使ってください」ではなく、自ら使いたくなる工夫が必要
—— どんなものを残すのか、価値判断の是非はどうあるべきか
—— アーカイヴの存在について社会のコンセンサスはまだ不十分ではないか
—— アーカイヴに蓄積された「文化資源」を、どう利活用するかが難しい

詳細は2025年1月刊行予定の《ACAライブラリ01》で。

同時開催 北海道のアーカイヴ事例ポスター展概要

 シンポジウムと同時開催した「北海道のアーカイヴ事例ポスター展」(ギャラリーA)では、美術、音楽、演劇、文芸、映画、出版、地方史といった多彩な分野のアーカイヴとそれに準ずる事例について、寄稿の短縮版を掲載したポスターと書籍・資料で紹介しました。ここでは見出しのみにとどめ(敬称略)、寄稿の全文は《ACAライブラリ01》に収録します。

  • 連帯は力だ!
    —— 北海道芸術文化アーカイヴセンター代表 古家昌伸
  • 公募展中心の美術史に 「異端」を位置付け
    —— 吉田豪介著『北海道の美術史』(執筆:美術評論家 佐藤友哉)
  • 音楽史から映画史へ 社会的意味と生きがいと
    —— 前川公美夫著『北海道音楽史』『明治期北海道映画史』『大正期北海道映画史』(前川公美夫)
  • 戦後の演劇史書き上げ 北海道の広さ実感
    —— 鈴木喜三夫著『北海道演劇 1945-2000』(鈴木喜三夫)
  • 演劇の情報 ウェブに集約 結果としてのアーカイヴ
    —— 札幌演劇情報サイト d-SAP(d-SAP主宰 佐久間泉真)
  • 幕末から昭和の出版文化 編集委員ら研究会重ね
    —— 『北海道出版文化史』(同書編集委員 出村文理)
  • 北海道舞台の映像ミュージアム 22年の活動に終止符
    —— 旧NPO法人北の映像ミュージアム(元同法人理事長 佐々木純)
  • 先鋭的なコンサート紹介 40年の映像蓄積
    —— NMA LIVE Video Archive(NMA主宰 沼山良明)
  • 滞在アーティストの往来と 出来事を記録
    —— アートとリサーチセンター(同センター主宰 小田井真美)
  • 清掃から始め 野外彫刻4000体余データ化
    —— 札幌彫刻美術館友の会「北海道デジタル彫刻美術館」(同会会長 高橋大作)
  • 日本画家 岩橋英遠 創作の現場をアーカイヴ
    —— 日本画家 岩橋英遠アーカイブ(滝川市美術自然史館学芸員 河野敏昭)
  • 旭川文化芸術データベース群 課題と展望
    —— 三浦綾子文学データベース群(三浦綾子記念文学館事務局長 難波真実)
  • 地方史研究の方法と課題 突き詰めた16年間
    —— 山本竜也著『地方史のつむぎ方』『南後志に生きる』(山本竜也)