2024-06-20更新
北海道芸術文化アーカイヴセンターは、北海道で行われている芸術や文化活動に関する多様な情報を、多くの有志の協力を得て収集し、Webサイトとデータベースの形で公開していくことを目指しています。2024年6月19日に開催した設立運営会議を経て、芸術や文化活動、市民活動に携わってきた約30人を運営メンバーとして正式に活動を開始しました。
この設立趣意書は、アーカイヴセンター設立の趣旨と狙いを簡潔にまとめたものです。
――北海道芸術文化アーカイヴセンター運営メンバー一同(文責:古家昌伸)
■北海道芸術文化アーカイヴセンター
Hokkaido Arts and Culture Archives Center
設立の理念 歴史を語って未来を紡ぐ
北海道芸術文化アーカイヴセンター(ACA)は、北海道でこれまで行われ、これから予定されている芸術・文化のさまざまな情報を、分野を問わず、規模の大小を選ばず、可能な限りあまねく集積していくことを志す市民団体です。歴史の奥深い山に埋もれかねない貴重な事象を記録・蓄積し、開かれたデータベースとして公開していきます。
ACAのミッションは、芸術・文化にかかわってきた私たちの足跡を、私たち自身が北海道の歴史に位置付け、50年後、100年後の未来に伝えていくことです。未来の北海道の文化は、綿々と耕され続けてきた歴史の上にこそ紡がれていくものだからです。それぞれが「私のアーカイヴ」を記録していくことで、現在地を再確認し自らの創造につなげることができるでしょう。また、芸術・文化の愛好者である市民や研究者たちの関心に応えることも大切な役割です。
発表された作品(モノ)の姿だけでなく、それらがどんな過程で作り出されたか、どんな価値があるのか、時代に応じてどんな潮流が生まれ、どんなプロジェクトが試みられたかなどの事象(コト)は、意図して語り合い、ドキュメント(記録、エッセイ、批評、論考など)として記述して初めて、後世に忠実に伝えることができます。
これまで北海道では芸術・文化のアーカイヴ(記録保存)は、公立/公的な機関はもちろん、各分野の個人・団体の志と努力によってなされてきました。これらのありかをインデックス化する(わかりやすく示す)とともに、分野も立場も異なる、より多くの有志(ヒト)の力を結集できる場を創っていくことが、ACAの企てです。
活動のヴィジョン 文化の蓄積の豊かさを知る/伝える
ACAの活動により、大きく三つのことを実現します。
1 北海道に芸術・文化の豊かな蓄積があることを、未来の担い手や関心を持つ人々に理解してもらう
2 包括的に記録保存することで、特定分野だけでなく芸術・文化総体への認識を新たにしてもらう
3 共創の精神に基づいて活動することで、芸術・文化をコモンプロパティ(共有財産)と捉える考え方が根づく
活動のミッション 開かれたアーカイヴと旺盛な発信、そして共創
アーカイヴする
リアルタイムの芸術・文化活動を記録し、散在している多くの情報を統合しながら、データベース化していきます。さらに可能な限り過去にもさかのぼって情報を集積します。多くの人たちの協力と、多種多様な「情報のありか」を知っている人たちの知恵が必要です。
発信する
集積した情報は、いつでも誰でも利用できるよう公開します。また新たなドキュメント(記録、エッセイ、批評、論考など)を執筆し、広く発信します。既刊の主要なテキストは、著作権者の了解を得て公開を模索します。その過程で、著作物の適正利用やクリエイティヴコモンズの考え方を研究していきます。またアーカイヴセンター独自のプロジェクトを立案し、成果をウェブやブックレット、シンポジウムのかたちで届けることも役割と考えています。
共創する
アーカイヴセンターは、さまざまな情報や経験を持った人たちが、フラットな立場で協力し合える場を創り、運営していきます。志をともにする個人・団体・プロジェクトとの連携・協働をさらに進めます。
【資料編】芸術・文化を記録する試み(敬称略)
吉田豪介『北海道の美術史』(共同文化社 1995)と前川公美夫『北海道音楽史』(私家版 1992/大空社 1995/[新装版]亜璃西社 2001)――は芸術史を体系的に記述した貴重な本。著者の史観が定まり、視点が一貫しています。
美術では、有志による『美術ペン』が創刊から57年を経て活動を続けています。また、公立美術館や芸術系の大学には研究紀要があるし、北海道美術館学芸員研究協議会も美術史記述の試みを模索してきました。天神山アートスタジオは、主にレジデンスで来道したアーティストの活動を記録する「アート&リサーチセンター」を運営しています。
音楽については、2005〜2011年に刊行されたクラシック音楽誌『季刊ゴーシュ』も、一定の役割を果たしたと言えるでしょう。ポピュラー音楽にも、NMA(ナウ・ミュージック・アーツ)が長年手掛けてきたジャズや前衛音楽のライブの充実したデータベースがあり、SIAF(札幌国際芸術祭)2017でクローズアップされました。
文学には、北海道文学館編『北海道文学大事典』(1985)があり、これ以降の動きを反映した『北の表現者たち2014:北海道文学大辞典補遺』も刊行されました。何より、1995年に開館した北海道立文学館(運営:公益財団法人北海道文学館)が、博物館としての役割をまっとうしています。詩、短歌、俳句、川柳の年鑑も刊行されています。
演劇は鈴木喜三夫『北海道演劇 1945-2000』が詳しいし、映画・映像の資料は「北の映像ミュージアム」(1999〜2023)が収集してきました。前川の『明治期北海道映画史』(2012)『大正期北海道映画史』(2023)も労作です。
もちろん個人があふれる思い出をまとめたものや、単発のプロジェクトについての記録は、枚挙にいとまがありません。これらも貴重なアーカイヴのひとつと捉えることができます。
一方、芸術・文化を網羅的に編年的に記録した媒体としては、「北海道年鑑」(1947復刊〜2002、1年間のあらゆる社会活動の動向・統計、各界人名録などを掲載)や、「札幌芸術文化年鑑」(1984〜2004、各芸術分野の1年間の総括、特集記事のほか、展覧会公演のデータも)がありました。ことに札幌芸術文化年鑑の記録は貴重なものでしたが、両誌の終刊以降、継続的な情報収集は行われていません。