北海道芸術文化アーカイヴセンター

HOKKAIDO ARTS AND CULTURE ARCHIVES CENTER

AtoCジャーナル 2023-08

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2023-08-31

 朝日新聞文化面。公共劇場の芸術監督のあり方を深く考えさせる良い記事。東京都杉並区立の「座・高円寺」芸術監督にシライケイタが就任した。公募・審査を経て74人の候補者から選ばれた。同館の初代監督で、世田谷パブリックシアターの初代劇場監督を務めた劇作家・演出家の佐藤信は、〈アーティストにとって芸術監督は、選ばれ方だけでなく仕事や評価方法もブラックボックスになっている〉と話す。90年代以降、世田谷やBunkamuraシアターコクーンなど「創造型劇場」が主流となった。しかし、芸術監督の権限や役割はあいまいなまま。〈税金で運営される効率劇場で、説得力のある制度作りに取り組んでこなかった〉と佐藤は演劇界の責任にも触れる。
 一方、串田和美が初代の芸術監督を20年間務めたまつもと市民芸術館。退任に当たって、実績を検証する専門家会議を開き、国内外への発信や地域コミュニティを巻き込んだ串田の活動を評価した。これを踏まえて、今後は「芸術監督団」として運営に関わる人材を選んだ。館を運営する財団理事長の〈芸術監督を『制度』化することで、より多様な人を受け入れられるはず〉と言う。うなずける。記事は学習院女子大教授が語る「公共劇場のビジョンの必要性」という言葉で結んでいる。 
 ひるがえって、芸術監督と呼ばれるポジションをあえて置かずに運営してきた札幌のKitaraとhitaru。札幌市は芸術監督という「制度」の功罪をどう検証し、結果として「置かない」判断を下したのか。聞いてみたい。
 芸術監督や劇場監督の問題と通底する話題。道立近代美術館の館長も務めた水上武夫が死去。民間から館長を迎えたのは、後にも先にも一人だけのはず。賛否両論があったかもしれないが、記憶に残る人物であった。民間館長がいた歴史は、館長選びの基準に官民の壁はないことを証明した。であれば今こそ、その功罪を含めて「館長」という制度の意味を考える意義はあるように思う。
 朝日新聞の北海道面では、留萌市が街ぐるみで誘致している吹奏楽部の「音楽合宿」の取り組みを紹介。合宿に使う場合は、練習場の会場費を無料にする代わり、楽器運搬などは市内の業者を使うと。生徒たちの面倒は「留萌吹奏楽部後援会」が担うため、教員の負担も軽減できる。地元の僧侶で、音楽指導経験もある谷龍嗣が発案者という。三方よしの取り組みではないか。

2023-08-30

 朝日新聞朝刊の北海道面は、シンガー・ソングライター泉谷しげる北海道南西沖地震(1993)に際しての募金活動を紹介した。言葉が面白い。〈日本地図に「奥尻」という島があることを初めて知ったぐらいで、縁もゆかりもなかった。でもあの悲惨な映像を見たら、あの小さな島にも俺のファンが1人や2人はいて、ひどい目に遭っているかもしれないって。関係ないやって気にならないんだよ〉。フォークゲリラは1年間に100ヶ所以上にも及んだそう。被災地の女子中高生に「何が欲しい?」と聞いたらギターと答えたので、学校に楽器を贈ったものの〈彼女たちの何ともいえない反抗感、可哀想な被災者扱いされたくないという拒否感。それがよかったねー。あの様子を見て、こいつら大丈夫だなって思ったね〉〈俺としても、力になりたいっていう心からの願いだったけど、『欲しいものある?』なんていう聞き方自体が問題だったなあ。救ってあげようというおごりがあったのかもな。反省しなきゃいけないよね。彼女たちから教わった、一番大きなものだったよ〉

2023-08-29

 道新朝刊文化面のシリーズ《歴史を問う 関東大震災100年》は4回目で、政治学者姜尚中にインタビュー。姜は、一環して「日韓の関係は友好的にあるべし」という視点で発言してきた。両国は〈残念ながら150年間、一緒に同じ課題を成し遂げることができなかった〉と位置付け、〈日本の歴史は、日本に住んでいる日本人だけの歴史ではなく、隣国から来た人たちと重なり合ってできてきた〉ことを強調する。最後に中途半端な一段落が。幕末の思想家・横井小楠(しょうなん)が説いた「天地公共」を紹介。普遍的な公共性は人種や民族を問わない、としたところまではいいけれど、〈親子の関係と、上司とそれに仕える関係は違うと。ところがそれを一緒にすることによって、日本ではある種の美学が成立した。中国では、愚かな上司の元を去り徳のある人に仕える。この方が極めて近代的な概念だと思います〉。この指摘が興味深いように見えて、ちょっと言葉足らずでわかりにくい。
 道新夕刊カルチャー面。《奏で人 札響》でホルン首席の山田圭祐を紹介している。

2023-08-28

2023-08-27

 岩見沢市栗沢町美流渡で「森の出版社ミチクル」を運営する來嶋路子のインタビューが、道新朝刊読書ナビに。美術雑誌『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長という経歴。みると・とーぶプロジェクトの実行委員長も務める。自作の絵本を直販で出しているうち、「ローカルブックス」と銘打って自費出版にも対応している。〈野菜を売るのと同じような感覚で本を売る活動が成り立てば、私だけでなく本を出版したい人たちの可能性が大きく広がる〉
 道新朝刊社会面。「長沼ナイキ訴訟」の裁判記録の写しや録音テープが道立図書館に保管されているという話題。保管の事実は新しい発見ではないが、自衛隊を違憲と判断した一審判決から半世紀の節目で書かれたのだろう。知られざるアーカイヴを掘り起こす意義を伝えた記事だ。
 朝日新聞朝刊1面には、100年前の関東大震災直後に被災地を撮った35ミリフィルムが見つかったとの記事。静岡県の伊東町(現伊東市)を襲った津波の被害も記録されているそう。大阪朝日新聞社が撮影したもので、同社が保有する写真や取材記録とも一致している。すでに国立映画アーカイブが所有している16ミリフィルムと重複しない部分が6分間あった。板橋区立教育科学館の研究員が骨董品として入手したものらしい。津波被害を記録した国内で最も古い映像のひとつとされる。ひるがえって道内災害の映像記録はどこまで遡れるのだろう。

2023-08-26

 道新朝刊サタデーどうしん。東京の劇団「範宙遊泳」が話題作『バナナの花は食べられる』を、札幌のhitaruで9月に上演する(22、23日)。劇団代表・演出は山本卓卓(すぐる)。コロナ禍で上演自粛が続いたのを機に、連作短編の映像を配信して、これを劇場作品に翻案した。2021年に第66回岸田国士戯曲賞を受賞。関連記事で、2024年に札幌駅北口にオープンする「北八劇場」が中高生向けワークショップ開催を伝えている。劇場開設前の入念な準備は、札幌座での蓄積が生かされているとみた。
 道新夕刊カルチャー面は「演劇シーズン2023―夏」の総括。約5,400人という集客は、コロナで落ち込んだ数年間から回復に向かいつつあると受け止めてよいのだろう。

2023-08-25

 全国の「うたごえ運動」で大事にされてきた合唱曲『芦別の雪の中を』が、「日本のうたごえ祭典」(8月26日、hitaru)で歌われるとの記事。道新朝刊社会面。1952年7月、旧国鉄根室線の線路爆破で無実の人間が罪に問われた冤罪事件で、被告を応援するために書かれた歌とのこと。
 道新カルチャー面では、先に受賞者が発表された新道展の最高賞作家と作品を紹介している。《展覧会》は、岩見沢の松島正幸記念館で開かれているグループ展「Returen To Fantasy」を取り上げた。メルヘン調絵画には芸術性と娯楽性の両面を兼ね備えたものがあると、あえて?再評価している。
 道新夕刊社会面のベタ記事。東大が大江健三郎の自筆原稿など18,000枚の資料をデジタル化した「大江健三郎文庫」を9月に発足する。2021年に本人が寄贈したものだそう。知らなかった。
 《まど》に、旭川の優佳良織(ゆうからおり)の話題。「芸術家肌の厳しい先生」との木内綾評は貴重な証言。〈辞めた人の『もう針一本持ちたくない』気持ちもわかる〉の言葉も。

2023-08-24

 道新朝刊社会面。道内在住の映画監督、影山あさ子藤本幸久が、海外の先住民族と先住権をテーマにしたドキュメンタリー映画を製作中。2025年ごろの完成を目指す。短編「気候変動とたたかう先住民」を道内4ヶ所で先行上映するそう。米国とカナダの先住民とサケ漁獲権の問題に迫る。
 道新夕刊1面には、十勝・芽室町の「巨大じゃがいもアート館」でウクライナの子どもたちの絵の貸し出し希望が相次いでいる、という記事。NPO十勝めむろ赤レンガ倉庫(浅野修代表)は、世界の子どもたちの絵を集めて展覧会を開いてきたそう。所蔵作品は150カ国、10万点!とのこと。驚異的だ。
 朝日新聞夕刊に指揮者・飯守泰次郎の追悼記事(吉田純子)。コロナ禍のさなかでの活動への言及。〈制約が逆に、よりよい文化芸術の礎となることがある。今、私たちは大きな時代の転換期を生きている。苦しい時期ではありますが、こういうときにこそ真に偉大な作品が生まれてくる。芸術がある限り、私たちから希望が奪われることは決してないのです。〉

2023-08-23

 道新朝刊社会面に、倉本聰の『ニングル』を日本オペラ協会がオペラ化するという記事。
 道新夕刊カルチャー面に、札幌の劇団OrgofA(オルオブエー)が英国シャーロット・ジョーンズの戯曲『エアスイミング』を、札幌のターミナルプラザことにパトス(西区)で上演するという。演出が大阪の劇団代表、役者は札幌と福岡からというハイブリッドなプロジェクトなのがいい。
《ステージ》は英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルらがそろった「ロイヤル・スターズ・ガラ」を評した。こちらも芸術監督の友人でもある秋田在住のダンサー(韓国籍?)が率いるバレエプロダクションが主催して、札幌と秋田のみでの上演。東京抜きのプロジェクトの存在感がうれしい。
 朝日新聞夕刊1面の「TORA SAN」の記事が面白かった。フランスで「男はつらいよ」人気が高まっているとのこと。もともと日本映画はフランスでも人気。溝口健二、小津安二郎など作家性が強い監督の作品が好まれ、「寅さん」はそれほどでもなかったが、MANGAやハイテク文化だけでない「知られざる日本」への関心が高まっているそう(仏ジャーナリスト)。「家族」や「ユーモア」「ウィット」という寅さんのキーワードを挙げて説明した。現代ではベタと思われそうな表現も、何周か回って再発見されることはある、ということ。

2023-08-22

 朝日新聞朝刊の《オピニオン&フォーラム》は、国際日本文化研究センターの井上章一所長(風俗史・建築論)のインタビュー。文化庁移転を前にして『京都ぎらい』の真意を聞く。京都から性的な要素を排除し、JR東海の「そうだ京都、行こう」キャンペーンに代表される観光地イメージに仕立てたステレオタイプ化と、洛中の京都人たちの「地方」を見下す根強い意識と。内在する問題は、方向性は別としても北海道の地方論、地域論に移し替えることができる。
 道新夕刊カルチャー面では、今年のセイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)を紹介。小澤征爾とも親交があったジョン・ウィリアムズが指揮する由。記事は、2人とそれぞれ縁があったフランスの指揮者ステファン・ドゥネーブが、OMFでの再会をお膳立てしたとの内容だ。ドゥネーブは小澤のアシスタントだった。小澤がボストン響音楽監督時代にボストン・ポップスの指揮者としてウィリアムズを見出したという話は初耳学。
 藤田睦美の《居酒屋「小太郎」物語》は、コオロギの鳴き声の話。お客さんの虫取り名人と虫博士からのアドバイスで、艶っぽい声が聴けたという話はいいな。「男っていうのは…」はともかく。
 ジブリアニメの背景原画を担当した山本二三が死去。70歳は早い。

2023-08-21

 道新朝刊の《哀惜》に、共同通信の記事で大江健三郎の追悼。批評家・尾崎真理子の言葉で〈難解と言われるが、行けるところまで奥に行き、その風景や人物を明確に書く作品は、むしろ分かりやすいと感じる。そこには今、私たちが置かれている現実とは違うまなざし、可能性が記述されている〉
 同じく朝刊の道央圏版では、明治の伊達開拓を主導した亘理伊達家の家老田村顕允(あきまさ)の展覧会を紹介。だて歴史文化ミュージアムで9月24日まで。
 道新夕刊カルチャー面は、この日も盛りだくさん。
 33回目となる札幌芸術の森バレエセミナーは、昨年パリ・オペラ座に入団した山本小春(富良野出身)も姿を見せた。
 旭川の詩人・柴田望らが編集した『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない』日本語版が15日に刊行された。アフガニスタンのタリバン政権による詩作禁止への抗議を訴えた詩人のソマイア・ラミシュに共感した詩人たちの意義ある行動である。
 《音楽会》は、鈴木優人が指揮した札響hitaru定期(8月3日)。武満徹の『夢の時』について〈札響は明晰に演奏〉〈ただ、まどろみの時間を思わせるような「タケミツ・トーン」とは異質の楽想が描かれたという印象が残る〉と評した(三浦洋)。《音楽会》の隣に置かれた南聡の《魚眼図》では、「アンフォルメルと音楽」と題して、今年が生誕100年となるジョルジ・リゲティの言葉(メロディもハーモニーもリズムもない音楽」を紹介しており、その対比が面白い。

2023-08-20

 道新朝刊・読書ナビの《ほっかいどう》は、佐々木譲の新刊『時を追う者』(光文社)。 

2023-08-19

 道新社会面で第67回新道展の受賞者発表。札幌の永桶宏樹・麻理佳夫妻の美術ユニット「故郷2nd」によるインスタレーション作品『集合と解散 明日は別の電車に乗る』が協会賞を受賞した由。美術ユニットの受賞も、インスタレーションの最高賞も珍しいのではないか。既存の道展、全道展に負けない新機軸を、という創立当初の気概を思い出してみる。
 作家の桜木紫乃の道新朝刊連載エッセー《北海道発、女たちの覚悟》。飼い犬ナナの死を語っている。ペットへの愛情と追憶。〈時間は驚くほど早く過ぎてゆく。どんな悲しみも日常に紛れてゆく〉〈「お前は次、どんな姿でどこに生まれてくるんだ?」。また、我が家においでよ〉
 お待ちかね。「ライジングサン・ロックフェスティバル(RSR)」は、道新夕刊カルチャー面のリポートがさすがに詳しい。MISIA&矢野顕子の共演(写真や良し)や、電気グルーヴ、スクーヴィードゥー、くるり、サンボマスターらベテラン勢、そしてサンステージのトリに抜擢されたマカロニえんぴつと、今年のRSRの傾向と魅力を要領よくまとめている。熱中症対策への配慮も求めている。
 この紙面には、興味深い記事が多数。村田真の《ウエーブ美術》は、公立美術館の「後発県」であった青森が、県美に次いで十和田市現代美術館、弘前レンガ倉庫美術館、八戸市美術館、国際芸術センター青森と拠点施設をめぐるアートツーリズムの地として注目されていることを紹介している。
 7月に100歳を迎えた書家・中野北溟が最高顧問を務める創玄会の「創玄作家100名による小品展」が20日まで札幌市民ギャラリーで。中野は、多くの仲間や弟子たちの祝意に応えるかのように〈ありがたくって うれしくって 涙あふれる〉という心温まる書を出品した。
 さらにさらに。《展覧会》は、道立旭川美術館で開かれているグラフィックデザイナー遠藤享(すすむ)の個展を取り上げた。90歳となる作家の挑戦と変遷をうかがうことができる。天辰保文の《音楽アラカルト》は、ロビー・ロバートソンの追悼。こうしてみると、偶然にも80歳、90歳、100歳のアーティストたちの足跡をたどる紙面になっている。

2023-08-18

 道新朝刊《読者の声》に、国立科学博物館クラウドファンディングで運営資金を確保した一件に関する投稿。〈「国立」と名のつく施設が、人の善意に頼らなければならない現状はいかがなものか〉〈大阪・関西万博の整備費は、いつの間にか総額1250億円から1850億円に増額された。日本の知の宝を守る博物館の予算を1億円増やすこともできないのか〉。至極真っ当。
 道新朝刊十勝・帯広版。浦幌町十勝太の海沿いの土地に屋外イベントスペースが誕生した。オーナーは帯広でアイヌ料理店を経営する豊川純子。妹の豊川容子がボーカルを務めるバンド「nincup(ニンチュプ)」が出演するライブを26日に開催する。土地を「集楽」と呼び、イベントスペースを「十勝太187」、ライブを「月を海」とするネーミングセンスが気になる。
 同じくオホーツク版に、網走市立郷土博物館の特別展「夜のいきもの展」の記事。エゾシカやコウモリ、エゾセンニュウ、トラツグミなど動物たちの夜の生態を展示室に再現している。発想やよし。函館・道南版の《縄文遺産 道南から世界へ》では、函館市縄文文化交流センターでの「戸井貝塚展」(10月1日まで)を紹介。市指定文化財の「角偶」はシュールな外見。これは一度見てみたい。
 朝日新聞夕刊に演出家・鈴木忠志(84)が、若き日のプーチン・ロシア大統領と2度面会したときのことを語っている。鈴木が関わり演劇を通じて反戦や反差別を訴える「シアター・オリンピックス」のモスクワ開催(2001)や日ロ共催(2017)のとき。いまロシア芸術は世界で排除されたままになっている。〈「その原因を作り出したのはプーチン氏自身なのだ」〉
 イタリアの名ソプラノ歌手レナータ・スコット死去。89歳。

2023-08-17

 道新朝刊の札幌圏版で「ライジングサン・ロックフェスティバル(RSR)」の写真特集。フェスを楽しんでいる来場者への取材のみで、アーティストの名前はひとりもなし。会場で取材しても、演奏中の写真は許可されていないので紹介しづらいとはいえ、文字では書ける。演奏の方はカルチャー面にお任せなのかしらん。
 道新朝刊のおそらく道央圏共通の連載《廃校転身》で、小樽・後志版は「ツキガタアートヴィレッジ」を紹介した。月形町の書家・久保奈月らが、2006年に閉校した知来乙小の建物を活用して昨年開設した。多目的ホールやギャラリー、貸しアトリエなどがある。
 東京はサントリーホールでの話題ではあるが、これ、道内でもやってくれないかなぁ、と感じた記事が朝日新聞夕刊に。作曲家の三輪眞弘がプロデュースする現代音楽祭「サマーフェスティバル」で、ガムランの演奏と屋台を組み合わせた空間を作る、という企画だ。イメージはこちらのサイトの紹介記事がわかりやすい。https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/34600
 これってKitaraでもできるじゃん、と妄想が膨らむ。ビアガーデンといえば大通公園だけれど、Kitaraの中庭やホワイエを解放して飲食ができるようにしつつ、大ホールと小ホールではしっかりと組み立てられたプログラムで、終日演奏会が開かれる。飲食・歓談を楽しみながら「あ、次の小ホール聴いてくるわ」と出かけていく。もちろん一日中、ホールにいてもかまわない。Kitaraの新しい名物になるような気がするんだけど。サントリーに負けず、こんな音楽祭を企画してほしいな、サッポロビールさん。
 指揮者の飯守泰次郎が死去(82歳)。国内では数少ない「ワーグナー指揮者」であった。○○指揮者と呼ぶことについてはさまざまな考え方があるだろうけれど、第一人者という尊称であることは間違いない。札響とも何度も共演しているが、なぜかいつも機会を逃してきた。しっかりと、聴いておきたかった。音源を探してみようか。

2023-08-16

 道新朝刊の《読者の声》に、知事公邸の活用策について、道立図書館と道立文書館を再移転して、一帯を文化ゾーンにしてはどうかとの提案。道立近代美術館のリニューアル検討がごにょごにょしているのは、隣接している知事公邸と併せたエリアをどんなコンセプトで整備していくか、大方針が示されていないから。提案への賛否はともかく、視野を広げて考えていくことは大事。
 道新夕刊カルチャー面に、ドイツ在住のアーティスト菊池史子の寄稿。夕張にかつてあった28もの小学校の校歌と市民の記憶をモチーフに作品制作をしている。〈私の興味は小学校の歴史ではなく、あくまでも個人の記憶。それは個人の記憶が土地の記憶であり、次の世代に残すべき文化財産だと信じているからだ〉
 同じ紙面の《音楽会》で取り上げたのはPMF GALAコンサート(評・八木幸三)。公開リハーサルと比較して、指揮者ダウスゴーのバランス感覚と指導力に着目した。ブルックナー9番の補筆完全版80分を暗譜で振り切ったことにも触れている。

2023-08-15

 道新朝刊は地元の芸術・文化記事なし。文化面は《歴史を問う 関東大震災100年》のシリーズ2回目で、ノンフィクション『九月、東京の路上で』(ころから)を書いた加藤直樹にあらためて話を聞いた。その隣の記事、安田菜津紀の〈社会時評〉はジャニーズ事務所の性被害問題がテーマ。前者は、震災後の不安を背景とする流言から起きた虐殺の歴史に、後者は当事者もメディアも長く口をつぐんできた不都合な事実にきちんと向き合うべきだ、という論調が共通している。
 道新夕刊カルチャー面では、シリーズ《シロカニペ 銀の滴 知里幸恵「アイヌ神謡集」刊行100年》に、アイヌ文化伝承者の原田公久枝が寄稿。登別で「銀のしずく記念館」を長く運営した横山夫妻の思い出に触れながら、知里幸恵の言葉〈私がもしかシサムであったら、もっと湿ひの無い人間であったかも知れない〉に共感する、と述べている。
 朝日新聞は甲子園の記事でいっぱいだ。ことに13、14日は道内勢の惜敗とサヨナラ勝ちが続いたので、北海道面も野球新聞みたい。

2023-08-14

 新聞は本日朝刊が休刊。道新夕刊のカルチャー面は、PMFに出演したデンマーク出身の指揮者トーマス・ダウスゴーのインタビュー。師匠バーンスタインについて〈とても深く考える人でした。物事を正面から見るだけでなく、ひっくり返してまた考える。とにかくよく考える人でした〉。PMFOと演奏したブルックナーの交響曲第9番の〝補筆完成版〟第4楽章については〈(未完だった)第4楽章まで演奏すると、ブルックナーも悩みがある人間であったことが分かります〉と語っているけれど、この作曲家は自作にとことん手を入れ、いくつもの改訂版を作った、そもそも「悩み多き人」なのだ。ベートーヴェンの第10、チャイコフスキーの第7、マーラーの第10、エルガーの第3など、未完成の交響曲を本人のスケッチなどから「こうだったのでは」と補完する例は少なくないが「これぞ!」と思った記憶はない。この日もブルックナーらしさと、その未来形を無理やり引っ張り出してきて混ぜご飯にした印象があった。ご本家をはるかに超える名曲に仕上げ、冥土の人を悔しがらせるぐらいの才のある人だけに許される仕事ではないのかな。

2023-08-13

 道新朝刊の読書ナビ。河﨑秋子《羊飼いの書棚から》では、岡田敦著『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』(インプレス)を紹介している。ユルリ島は根室半島の沖合にある無人島で、明治期に人が渡り、大正期から馬の放牧が行われていたという。岡田は写真と文で島の歴史と「今」を捉えた。筆者の河﨑もまた小説『颶風の王』でこの島の歴史を題材にしている。ところでユルリ島自体が道の天然記念物になっていることを初めて知った。魅力的な島だ。

2023-08-12

 道新朝刊社会面。石狩湾新港で野外音楽イベント「ライジングサン・ロックフェスティバル2023イン・エゾ」が開かれた(11、12日)。コロナで2年続けて中止。昨年は歓声自粛・マスク着用励行だったので、出演者と観客の掛け合いは4年ぶりとなる。

「サタデーどうしん」では今年のPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)を総括。ウルバンスキ、ダウスゴーの指導力、アカデミー生の質の高さもさることながら、 LGBTQについても考えた北大公開講座が大きな成果だったと振り返っている。吉原真里ハワイ大教授がPMFに対して提言した「教育機関や文化団体との連携」「先住民族について考える場に」は、古くから課題となってきたこと。「巨匠を呼んでいっちょ上がり」からの脱却のヒントは、すでにある。
 道新夕刊カルチャー面では、ACF札幌芸術・文化フォーラム主催の彫刻家・安田侃講演会(7月26日)を紹介。〈代表作となった「意心帰」などをいかに超えるか苦心している〉
 余談ながら、朝日新聞朝刊の読書面にドッキリ。美術家・横尾忠則による志村真幸著『未完の天才 南方熊楠』(講談社現代新書)の書評が天地逆さまに組まれており、評文の上に大きなゴシックで「未完」の文字が。横尾は以前から、この欄で鬼面人を驚かす的な試みを繰り返してきた。面白いと思う人と、ハッタリにすぎないと考える人がいるだろうけれど、紙面を作る側の立場では、筆者のアイディアをよく通したなあ、と驚く。〈未完こそ完成の進行形〉という言葉は、横尾が熊楠に重ねて自分自身にも言い聞かせているように読める。

2023-08-11

2023-08-10

 道新朝刊第4社会面に、旭川市・旭川市教委主催の彫刻賞「第43回中原悌二郎賞」の記事。今年は、多摩美大准教授の中谷ミチコさん(42)による石膏像『デコボコの舟』が選ばれた。彫刻界のベテランが受賞者に名を連ねてきた賞だから、42歳で受賞が最年少というのはうなずけるし歓迎したい。しかし「女性で2人目」には頭を抱えざるを得ない。彫刻界にもジェンダー問題が。
 いずれも道内の話題ではないが、道新も朝日も夕刊1面で戦争にまつわる話題をフューチャーした。 道新は、漫画家・故水木しげるが『総員玉砕せよ!』をはじめとする戦記物を手がけた背景を、家族の言葉で紹介。過酷な出征体験、玉砕した戦友との別れなど惨禍の記憶を後世に伝える使命感からだったと。いまなお続く戦争に、水木なら「ばかだなっ」と吐き捨てるだろう、という妻の言葉が響く。
 朝日は、例のバーベンハイマー(BARBENHEIMER)問題を、デーブ・スペクターが実に軽いトーンで語っている。いわく、話題性のある映画『バービー』『オッペンハイマー』の同時公開に盛り上がった映画ファンが「うれしくて盛り上がっちゃったんですね」。後者の公式アカウントが、原爆をジョークにした画像に好意的に返信した問題も「つい、乗っかっちゃったんでしょうね」。さすがに別記事では核兵器廃絶を訴える市民らのコメント、映画評論家の分析も紹介しているが……。うーむ。

2023-08-09

 長崎原爆の日の道新朝刊札幌市内版。富士フイルムフォトサロン札幌(大通西6)で開かれていた、写真家・故笹本恒子の写真展「報道写真家としてひとコマ求め続け108歳」を紹介。会場には広島の原爆ドームや福岡の三井三池争議など、時代を切り取った貴重な写真が並んだ。3年前にコロナ禍で断念した札幌展を、遺族や札幌の仲間が実現させたという。女性報道写真家の草分けと呼ばれた笹本は、108歳を目の前にした昨年8月15日に亡くなった。
 夕刊カルチャー面は、道内テレビ各局の「戦後78年」特番を特集。NHK札幌は11日の北海道スペシャル「北海道兵、10805人の死」で沖縄戦の戦死者や遺族を追う。HTB (14日)とHBC(15日)は、いずれも米兵が戦場から持ち帰った日章旗を持ち主の日本兵の遺族に戻す活動をしている米国のNPO法人の活動を紹介する。《音楽会》は7月23日のPMFホストシティ・オーケストラ演奏会(指揮:川瀬賢太郎)を取り上げた(評者:三浦洋)。筆者はバーンスタインの「スラヴァ!」、プッツのフルート協奏曲のようなユニークな曲をプログラムに入れたのがPMFらしい挑戦だと、筆者は思った。
 道新朝刊根室版では、4年ぶりに開催された現代アートプロジェクト「落石計画」の開幕を告げている。8日には池田良二・武蔵野美大名誉教授(根室出身)、井出創太郎、高浜利也という3人版画家と、地元の版画家・榎本裕一が「根室―私たちはなぜ、この場所に来てつくるのか」の題でギャラリートークも行った。「落石計画」のサイト<http://www.ochiishikeikaku.com/top/top.html>では、第1期(2008年)から8期(2015年)までの活動がアーカイヴされている。

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