北海道芸術文化アーカイヴセンター

HOKKAIDO ARTS AND CULTURE ARCHIVES CENTER

企画書 ver.01

北海道文化芸術アーカイヴセンター(仮)設立に向けて

2022-12-25

理念

 文化芸術の活動の総体を記録することは、容易ではありません。個々の作品(モノ)は、保存の価値を認める人がいれば後世に残すことができます(簡単に、ではないとはいえ)。でも、作品がどのような過程でつくり出されたか、どれほどの価値があるのか、時代の変化に応じてどんな潮流が生まれ、消えていったかなど(コト)は、意図して記述しなければ誰にも伝えられません。拝聴するだけでは言葉は消えていきがちです。テキスト(記録、エッセイ、批評、論考など)の積み重ねこそが、伝統を裏づけます。その点で、文化芸術のテキストは、社会の共有財産(コモンプロパティ)でもあるはずです
 北海道では、美術、音楽、文学などそれぞれの分野で、個人、有志あるいは団体がテキストを残してきました。しかし、おそらく 1990 年代以降、それぞれの活動がより専門分化・多様化したことで、各分野の通史を記述することは難しくなってきました。総括的な記録保存(アーカイヴ)がなされていなければ、いくら「北海道の文化はスゴイ!」と自賛しても説得力は得られず、再発見もありません。
 こうしたアーカイヴが十分に実践されていないことが北海道の弱点ではないか、このままではまずい。そんな思いが北海道文化芸術アーカイヴセンター(仮)構想の原点です。さまざまな得意分野を持つ人たちがゆるやかに集い(共創)、アーカイヴに持続的に取り組んでいく体制を整えたいのです。

文化芸術を記録する試み(敬称略)

 吉田豪介『北海道の美術史』(共同文化社 1995)と前川公美夫『北海道音楽史』(私家版 1992/大空社 1995/[新装版]亜璃西社 2001)――この 2 冊は、北海道の文化芸術史を体系的に記述した貴
重な本。著者の史観が定まっており、視点が一貫しています。
 美術では、有志が刊行する『美術ペン』が創刊から 56 年を経て活動を続けています。また、公立美術館や芸術系の大学には紀要がありますし、北海道美術館学芸員研究協議会も美術史記述の試みを模索してきました。天神山アートスタジオは、主にアート・レジデンスで来道したアーティストの活動を記録する「アート&リサーチセンター」を運営しています。
 音楽については、2005~2011 年に刊行されたクラシック音楽誌『季刊ゴーシュ』が、一定の役割を
果たしたと言えるでしょう(手前味噌ながら)。
 文学には、北海道文学館編『北海道文学大事典』(1985)があり、これ以降の動きを反映した『北の表現者たち 2014:北海道文学大辞典補遺』も刊行されました。何より、1995 年に開館した北海道立文学館(運営:北海道文学館)が、博物館としての役割をまっとうしています。
 演劇は鈴木喜三夫『北海道演劇 1945-2000』が詳しいですし、映画・映像の資料は「北の映像ミュー
ジアム」(1999~)が収集してきました。
 もちろん個人があふれる思い出をまとめたものや、単発のプロジェクトについての記録は、枚挙にい
とまがありません。これらも貴重なアーカイヴのひとつと捉えることができます。
 一方、文化芸術を網羅的に編年的に記録した媒体としては、「北海道年鑑」(1947 復刊~2002、1 年
間のあらゆる社会活動の動向・統計、各界人名録などを掲載)や、「札幌芸術文化年鑑」(1984〜2004、文化芸術分野の 1 年間の総括、特集記事のほか、展覧会公演のデータも)がありました。ことに札幌芸術文化年鑑の記録は貴重なものでしたが、両誌の終刊以降、継続的な情報収集は行われていません。

ヴィジョン案

 北海道文化芸術アーカイヴセンター(仮)の活動は、これまでの歴史記述の取り組みを引き継ぎつつ、新たな成果を積み重ねていくものです。それにより、大きく三つのことが実現可能と考えます。
1 各分野の歴史を包括的に記録保存することで、文化芸術の「総体」への認識を新たにしてもらう
2 北海道に文化芸術の豊かな蓄積があることを、未来の担い手や関心を持つ人々に理解してもらう
3 共創の精神に基づいて活動することで、歴史をコモンプロパティと捉える考え方が根づく

ミッション案

 大きく二つのミッションが考えられます。さらに細部の吟味が必要ですが、大風呂敷を広げます。
アーカイヴする
・展覧会や舞台芸術など、表現活動に取り組む個人や主催団体、公演会場などの協力を得て、一定期間の表現行為のあらゆる開催情報を収集し、データベースとして集積・公開します。
・公刊されたテキストのありかを可能な限り記録・収集(インデックス化)し、インターネット上で逐次更新します。執筆者や著作権者の理解が得られれば、内容もコモンプロパティとして公開します。
・テキスト(記録、エッセイ、批評、論考など)も、執筆者の理解が得られれば公開していきます。
・テキストに記載された個別の事項については《北海道文化芸術史年表》に反映していきます。
・作品の収集・収蔵を手がけることは当面難しいですが、視野には入れ、方法の模索を続けます。
発信する
・アーカイヴの成果をレクチャーや勉強会を定期的に開いて発表します。
・センター研究員(専門委員)のような制度を設け、文化芸術を身近なものとして伝える、やさしく面白い「読み物」としてのテキストを随時刊行(もしくはサイトで公開)します。
・各分野の活動の経過をまとめた定期刊行物(年鑑に相当)の制作も検討します。
・可能なら外部からの多様な問い合わせの窓口を設け、必要な情報がどこに、あるいは誰のもとにあるかを回答できるようにすれば、対外的な認知とアーカイヴのさらなる充実につながります。

体制案(名称はもちろん仮)

アドヴァイザー センターの活動に有益な提言をいただく。
事務局(運営委員) 運営全般の実務を把握し、実行していく。
研究員(専門委員) 文化芸術について調査に取り組み、新たなテキストを執筆して発信に努める。各種情報の収集・公開に責任を負う。
維持会員 ボランティア的な参加で、運営の実務やデータベースの維持に協力してもらう。
賛助会員 センター運営に賛同し、活動資金を提供してもらう。企業、団体、行政なども同じ扱い。

行程表(ロードマップ)

 2022 年 12 月 企画書作成、関係者に周知し、事務局や研究員に当たる賛同者を募る
 2023 年 ~ 賛同者による第 1 回打ち合わせ(理念の共有、検討事項を協議)
 第 2 回打ち合わせ(センター設立のスケジュール決定、設立準備)
 第 3 回打ち合わせ(設立準備の最終確認)
 2023 年春~ 北海道文化芸術アーカイヴセンター設立、第 1 回総会、活動開始